17.君は誰


自転車の後ろに真幸を乗せ、晃は住宅街を走っていた。
勿論、警官に見つかれば怒られる。
基本的に道をまっすぐ進み、たまに背後の真幸が言う方に曲がる。
薄暗い閑静な住宅街。
学校からは徒歩二十分といったところで、この辺りから通っている生徒を何人か晃は知っていた。
大体が自転車か、あるいはバイク通学。
距離があるわりに、学校まで上手く通う為の公共の交通手段、例えばバスなどが無いからだ。

「あそこの角のマンションで止めて」

しがみつくように晃の腹に手を回した真幸が言う。
その言葉に従い、晃はゆっくりと自転車のブレーキを絞った。
なるべく衝撃が無いように自転車を丁寧に停止させると、そこで自転車の乗り手は晃から真幸に交代する。
真幸が自転車置き場に行っている間、晃は自分の荷物と真幸の鞄を抱えたまま、マンションのエントランスで待たされた。

(真幸センパイって、こんな所に住んでるんだ)

あまりキョロキョロと見回すのは田舎者のようなのでやめた。
まだ建てられてから新しいマンションで、管理人も常駐らしく、一人暮らしをするにもさほど不安は無いのだろうと推測できた。
もっともシングル向けではなく、もっぱらファミリー向けのマンションであろうことは晃にもわかったが。

たいした時間待たされず、すぐに駐輪場の方から真幸が帰ってきた。
郵便受けからダイレクトメールを取り出し、晃の隣に立ってエレベータのボタンを押す。

「悪いわね」

「センパイの鞄、俺と違って軽いから平気っす」

真幸が鞄を受け取りながら言うので、晃はそれが荷物を持ったまま待たされたことに対する言葉だと思った。
けれど真幸は、笑いながらそれに首を横に振る。

「文化祭前日に呼び出したことよ」

降りてきたエレベータのドアが開く。
出てきた子連れの若い母親と入れ違いにその中に滑り込み、真幸は七階のボタンを押した。
電光の回数表示が上がっていく間、深い意味の無い沈黙が訪れる。

別に、文化祭前日に呼び出されたことに対しての不満は無い。
写真部は前日の用意が格別大変というわけでもなく、事前に用意した展示用の写真パネルを飾り付けるだけだった。
パネルを掛けるパーテーションを運ぶ作業だけは力仕事であったが、それでも通常の下校時刻前に全ての作業を終えることが出来た。
文化祭前日の今日だけは、準備の為に特別に午後九時までの居残りが認められている。
準備の遅れている部活やクラス有志は、ここでラストスパートをかける。
これで終わらないと、当日の早朝にどうにかするしかない。

「入って。狭いけど」

「お邪魔しまーす」

真幸に招き入れられる。
心なしか緊張し、晃は靴を揃えて脱いだ。
そもそも同世代の女子の家に行くこと自体が小学校以来で、しかもそれが「憧れの」先輩の家なのだから、緊張しない方がおかしい。
それに退院してからしばらく、真幸とはろくに話もしていなかったのだ。

「鍵掛けてくれる? チェーンはしなくていいから。あとからランスとユイも来るし」

言われた通りに鍵を掛けて、それから室内に上がりこむ。
通された1LDKのリビングは、けして狭くは無かった。
けれど置かれているダイニング・テーブルが大きめであるからか、広々とした空間とも言い難かった。
それ以外には特に目立った家具と言えば、テレビとファックス付の電話機が置かれた低いコーナー・ボードくらいだろうか。
それらのサイズの違いが、室内にアンバランスさをかもし出している。

「荷物は適当に奥の部屋に置いといて」

「はーい」

開けっ放しになっているリビングの奥の扉から、真幸の言う部屋を覗き込む。
そこは真幸の私室のようで、晃は遠慮がちに壁際に鞄を置く。
ふと、同じように壁際に立てかけられたコルクボードに気付く。
有名な建築物の写ったポストカードが何点か、あとは空や風景を撮った写真が数葉、無造作に画鋲で留められている。
夕焼けの海、夜景、どこで撮ったのか、廃線の風景。
写真部に入っている晃だが、カメラに触るようになったのはそれほど昔のことではない。
その腕前も審美眼も未だ素人に毛が生えた程度で、ボードに留められた写真の良し悪しはわからない。
けれど、だからこそ、晃は純粋にその写真を好きだと思えた。

「晃、アンタ、コーヒーで平気? もう淹れちゃったんだけど」

かけられた真幸の声に、晃は写真に見入っていた自分に気付いた。
慌ててリビングに戻ると、そこには既に二人分のコーヒーと、クッキーやらマドレーヌやらのお茶菓子が用意されている。
真幸はダイニング・テーブルに着いていて、晃に座れと目で促してくる。

「えっと、砂糖とミルクとか貰えます? ブラック、駄目なんで」

「あぁ、ゴメン。いつも私は何も入れないから気付かなかったわ。普通の牛乳だけど、良い?」

椅子に座った晃が頷くと真幸は立ち上がり、冷蔵庫から牛乳を取り出してきて、クリーマーに移し換える。
そして食器棚の引き出しからスプーンを出し、個別に包装された角砂糖二つと一緒に晃の前に並べた。

「すいません。あの、向こうの部屋に飾ってあった写真。アレって、センパイが撮ったんですか?」

「写真? まぁ、そうだけど」

一瞬、真幸はバツが悪そうな顔をする。
話題にすべきではないのか、その判断に晃は迷ったが、それでも感じたことだけは伝えようと言葉を接いだ。

「まだ良くわからないですけど、でも俺は好きですよ、あの写真。特に夕焼けの海を写したヤツなんか。技術的にどうこうってんじゃなくて、上手く言えないんですけど、とにかく雰囲気とか、そういうのが良いっていうか」

コーヒーカップの中に角砂糖を落とし、さらに上からミルクを注ぐ。
真幸の表情を見るのが怖くて、晃はコーヒーをスプーンでかき混ぜた。

「……あれ、夕焼けじゃないのよ」

「え?」

「残月。朝焼けなの」

弾かれる様に顔を上げた晃は、頬杖をついて晃とは逆の方を向いている真幸を見た。
そして察した。
真幸が照れていることを。

コーヒーを飲みながら続く、他愛も無い会話。
結局、真幸が自分を自宅に呼んでまで話したい用事とは、一体何なのだろう。
晃がそんなことを考え始めた頃、テーブルの上に転がっている真幸の携帯が鳴った。

「ハイ。……そっちはまだなの?」

真幸の話し振りからすると、電話の相手はどうやらランスらしい。
どうでも良いことだが、真幸の携帯の着信メロディは晃が聞く度に変わっている。
月に一体何曲ダウンロードしているのだろうか。

「あ、そうなの?わかったわ、よろしく」

「何でした?」

電話が終わるのを見計らって尋ねた。
真幸は携帯を再びテーブルの上に、いささか乱暴に転がす。
こういう扱いをするからか。
真幸が頻繁に携帯の機種変更をする理由がなんとなくわかった。

「ユイの部活が終わるのを待ってたら遅くなったって。今から一緒に来るみたい」

外はとっく暗くなっている。
この辺りは治安が悪いわけではないが、格別人通りが多いというわけでもないので、唯もランスと一緒の方が安心だろう。

新しくコーヒーを淹れる為に立った真幸の後ろ姿。
それをぼんやりと視界に納めながら、ふと晃は思った。

真幸は、こんなに小さかっただろうか?




+ + + + +



電話があって、それから三十分ほどしてからランスと唯がやってきた。
二人とも、何度か真幸の家には来たことがあるそうで、特に案内も必要無かったらしい。
それに関して思うところが無かったわけではない。
早い話が、真幸と自分、真幸とランスや唯の距離を再確認しただけだ。

久々に心霊対策委員会のメンバーが全員揃ったということもあり、場は和やかで明るいものだった。
自分達が「心霊対策委員会」と呼ばれることを嫌がってはいるが、こうして集まることが嫌いなわけではない。
同性・同学年の友人と一緒に居るところよりも、異性・他学年のファンに囲まれている姿の方が目に付く晃以外の三人は、お互いが一番気の置けない友人なのかもしれない。
共通の世界を理解する者同士。
だからこそ、自分がどこか浮いていると晃は感じてしまうのは、仕方無いことなのかもしれない。

「サキ、そろそろ今日の本題ってヤツを話さない?」

ランスがそう切り出したのは、夕食のピザを四人が食べ散らした後だった。
もっとも、「散らかした」のは晃だけだが。
真幸とランスの前にはコーヒー、晃と唯の前にはコーラのグラス。

「さっきからそれを聞きたくてアキラがウズウズしてる」

軽く笑いながら話を振られ、晃は急に居心地の悪さを感じて縮こまった。
ランスの指摘は尤もなのだが、いざその話題になると思うと、何故かこれからお説教をくらうような気まずい気分になる。
表情を薄くした真幸は、自分のカップに角砂糖を一つ、沈めた。

「……今日、みんなを呼んだのは、ちゃんと話さなきゃいけないことがあるからなの」

「それってぇ、もしかしてこの前の晃の件ですかぁ?」

ようやく重い口を開き始めた真幸に唯が尋ねると、真幸は小さく頷いた。
スプーンでコーヒーをかき混ぜながら、また角砂糖を一つ沈める。
まるで、時間稼ぎをしているかのように。
その視線は誰のことも捕らえておらず、ミルクの白い線が渦巻くカップの中に注がれている。
それゆえ、晃が真幸のことを注視しているのにも気付いていないようだった。

「結局、何も説明しないままだしね。みんな、あの事件の当事者だったわけだから、知る権利があるでしょう? それを説明するのは私の義務だから、とりあえず聞いて欲しいの。質問は受け付けるけど、上手く答えられない場合もあるかもしれない。それでも、いい?」

一同は頷く。
頷くしか術が無いのも事実だ。

「……あの日、晃が病院に運ばれた日、私は『こちら側』に居なかった。その前の数日も色々あって、詳しい話は省くけど、注意力が低下してた私は、学校内の異変にも気付けなかった。晃をあんな危険な状態にまで追い込んだのは、私の責任だわ」

「そんなの、八嶋先生だって学校に居たじゃないですかぁ。ユイは先生に相談したのに、先生がそれほど心配しなくても言ったんですよぉ。お姉さまの責任じゃないですよ!!」

「ユイ。悠斗には悠斗の役割があって、私には私の役割がある。今回のことは……私の管轄なのよ」

「あの、やっぱ俺が倒れたのって、霊のせいなんですか?」

真幸と唯の会話に、晃は躊躇いがちに割って入る。
おそらく、当事者中の当事者でありながら、一番状況を解っていないのが晃だ。
意識不明だったせいもあるが、もとより晃は霊力はあっても、能力者として修行をしているわけではない。
霊を感じることは出来ても、その状況を理解するまでは至らないのだ。

「……そう、ね」

晃の問いに、真幸は歯切れの悪い返事をした。

「さっきも言った通り、私は学校の状況を把握してなかったわ。後から聞いた話だと、美術室に悪質な浮遊霊が紛れ込んでたみたいね。二人の話からの推測だけど、その霊が晃に憑いて、家まで紛れ込んだ。アンタが最初に寝込んだ原因はそれよ。でもその霊はユイによって正しく処理された」

「じゃあ、ユイが感じた、アレは……?」

唯が身を乗り出す。
隣のランスも、真幸の話に口は挟まないものの、その目は好奇心に彩られている。
晃はというと、自分の身に降りかかった事件の真相よりも、それをどこか苦痛そうに話す真幸の方が気にかかった。

(なんで、そんなに辛そうに……)

そんな後輩の心境を知ってか知らずか、それでも真幸は話すことを止めようとはしなかった。
それが義務だという、先の言葉の通りに。

「晃を取り殺そうとしたモノ。それは、私を殺そうとするモノだったの」

さぁっと。
言葉の意味を理解したらしい唯が顔色を変えた。
ランスも柳眉をひそめている。
解っていないのは、やはり晃だけだった。

「私を攻撃しようとするヤツラはたくさん居るわ。あの時、『こちら側』の私は弱ってて、私を攻撃する絶好の機会だった。でも私は結界に護られてた。それでヤツラは別の処に向かわざるを得なかった。……世界は、『こちら側』と『向こう側』は繋がってるの。私とアンタ達が仲間だってことも向こうはわかってて、その中の一番護りの薄い処へ、つまり晃、アンタの処に行った」

わかる?と、真幸が晃に目で問いかけた。
話し始めてから、ようやく二人の視線が交錯する。
晃が感じているように、その目は苦渋に満ちていた。

「晃。アンタは常に危険にさらされてる。それはユイもランスも同じだけど、アンタだけはそれに対抗する術が無い。だから私はもっとアンタに気を配らなきゃいけなかった」

「でも、それは……」

晃の言葉、慰めにしかならないそれを拒むかのように、真幸は視線をテーブルの上に戻した。

「病院に運ばれたアンタは、はっきり言って、死んでもおかしくない状態だったのよ?」

その時の様子を思い出す。
と言っても、はっきりと覚えていることはほとんど無い。
今になって思い出せることは、冷たい海を漂っているような感覚と、その後に温かく力強く、そして柔らかい空気に包まれたことくらいか。

「晃を中心にユイとランスに結界を張ってもらって、その中を私が浄化した。それから、晃の霊体を連れ戻して、身体に定着させた」

死の淵から晃を連れ戻してくれた、それは、真幸だったのだ。

(俺、センパイに助けられてばっかかよ……)

膝の上で両手を握り締める。
手の平には爪が食い込み、痕が残った。

「……あの後、サキが倒れたのは?」

「あれは……私も弱ってた時期だったから。風邪気味だったし……問題は其処じゃない」

その事実もまた、晃にとっては初耳だった。
初耳だったが、やはり晃のせいなのだろう。
何の手助けも出来ず、ただ重荷になるだけ。
そんな自分が情けなくて仕方ない。

「私、晃に謝らなきゃならないの」

真幸の唐突な言葉に、晃は顔を上げた。
謝らなくてはいけないのは、晃の方だ。
高校に入ってからこのかた、迷惑ばかりかけている。

「センパイが謝るようなことなんか……。俺は、いっつもセンパイに迷惑かけてばっかで、今回だってセンパイに助けてもらって……」

言っていて、自分で泣きそうになる。
自分は無力だ。
そんなことはわかっていたが、それでも。

「晃、聞いて。アンタが退院する前日、私はアンタのお見舞いに行った。それにはワケがあって、私……私は、自分の為にアンタの霊力を封じたの」

泣きそうなのは、真幸の方だったのかもしれない。

「もっと他にも方法はあった。けど、私は自分が一番楽な選択をした。アンタに断りも無く。それは許されることじゃない」

それまで、晃は真幸を何処か別の次元に存在する人間だと思っていた。
出逢った時から、真幸は強い人間だった。
完璧な人間などこの世には居ないことは知っているが、それでもなお、真幸にはそんな幻想を抱いていた。

「完璧に封じたわけじゃないし、あくまで対処療法的なものだから、何かの拍子に霊力が解放されるかもしれない。それまで押さえ込んでいたものが溢れ出すわけだから、もしかしたら逆にそれが危険を呼ぶかもしれない。そういう不安定な状況を、私は作り出してしまった」

つまり、それが謝らなくちゃならないこと。
真幸は、苦笑しながら呟いた。
以前よりも真幸が小さく、けれど近く感じられる。

「だから、晃。私はアンタを護る。何があっても、私はアンタのことを護ってみせる。償いじゃなくて、それが、アンタの為にできる唯一のことだから」




「センパイ……」

「サキ……」

「お姉さま……」


「「「なんて男らしい……」」」




「あのね、私は真面目に言ってるんだけど」

「だから気障なんじゃないか、サキ」

「格好良いです、お姉さま!!」

真幸の悲壮な決意。
その悲壮さを振り払うように、ランスと唯は明るく笑う。

「別に、サキだけがアキラを護らなきゃいけないわけじゃない。浄化とか封印は出来ないけど、アキラのことは僕が良くわかる。注意を払うことくらいできるよ」

「そうですよぉ。何もお姉さまが一人で背負わなくったって、いいじゃないですかぁ。ユイは晃の為にはビタ一文あげたくないですけどぉ、それがお姉さまの為だったら、全然オッケーですしね」

立ち上がった唯は真幸の首に抱きつく。
頬を寄せられ、真幸は唯の頭に軽く手を乗せた。

「陳腐な言葉だけど、僕らは『仲間』なんでしょ。サキも、アキラも」

「毒を喰らわば皿までって言うじゃないですかぁ」

「いや、それは違うと思う」

笑い。
それに包まれて、晃は顔を上げた。
自分は何もできないけれど、それでも仲間であっても良いのだろうか。
曖昧な表情をした真幸と目が合った。

「真幸センパイ!!」

片手にコーラのグラスを持ち、勢い良く立ち上がった晃に、真幸は驚きに表情を一変させた。
同様の表情の唯とランスを尻目に、晃はコーラを思いっきりあおる。
ぬるくなり、気も抜けていたそれは甘いだけだったが、そのせいで逆にむせそうになった。

「俺はっ、霊感無くなって、確かにちょっと世界が変わったけど、でもそれが悪いって思ってません!!」

唯とランスと、そして真幸の瞳が晃を見つめている。
一度走り出した言葉は止まらない。
今、此処で伝えなければならないこと。
神に祈るような心地で、晃は己の心情を吐露する覚悟を決めた。

「センパイは自分の為って言ったけど、でもっ、俺はそれでも構わない。だって、俺は足手まといにしかならないし、もしこれで今までよりもセンパイの負担にならないんだったら、そっちのが全然良い!! 俺、センパイにそんな苦しんで欲しくない。俺は、いつもセンパイの力になりたいって思ってたから……」

言っているうちにやはり恥ずかしくなってきた晃は、握り締めたままだったグラスを置いて、自分も元の椅子に腰をおろした。
その晃の一世一代の告白に顔をしかめるフリをして、真幸はすっかり冷めたコーヒーに口を付ける。

「甘っ……」

そして今度はフリではなく、本当に顔をしかめる。
いつもは絶対に入れないミルクと砂糖二つを入れたコーヒーは、既に真幸の味覚に合うものではなかったらしい。
その苦虫を噛み潰したような表情のまま、真幸はうめくに晃に告げた。

「私は、アンタのことを負担だとか、足手まといだとか思ってないわよ。面倒くさいとは思ってるけど」

真幸が良く見せる不敵な笑み。
それが照れ隠しだと気付いた今日の晃は、もしかしたら今迄で一番冴えていたのかもしれない。




午後十時を過ぎたあたりで、四人は真幸の家を出た。
これから深夜の学校で肝試し、ではなく、文化祭の為の特殊な結界を張る作業があるらしい。
晃はそれに参加できないが、ランスと唯は、真幸のサポート役として共に学校へ行くことになっているそうだ。

真幸と唯は先に学校へ向かう為、マンションの前で既に別れている。
ランスに駅まで送ってもらう最中、晃はランスに言った。

「今日、真幸センパイって小さいんだなって思いました。物理的なことじゃなくて、ですよ。なんていうか、今までどうして気付かなかったのかな、センパイだって悩んだりするんですよね」

しみじみと、言葉を繋げる晃に、えも言われぬ表情をランスは浮かべた。
浮かんだ感情としては、おそらく淋しさが一番大きい。
何か間違ったことを言ったかと、晃は首をかしげた。
今日は、なにやら失言ギリギリの発言が多い。

「それはね、やっぱりアキラが霊力を失ったから、そう感じるんだよ」

「そう、なんですか……?」

「今までアキラは、サキの強大な霊力を無意識に感じ取ってたんだろうね。そういった感覚も封印されたから、だから、今までよりもサキを小さく感じたんじゃないのかな」

ランスの「眼」で見ると、優れた霊力を持った人間はとても目立つ。
自分の力を隠している能力者は別にして、普通の状態ならば、それを見分けることは難しくない。
曰く、その「眼」によって見える真幸は、一般人とは比べ物にならないらしい。

「明日、時間ができたら進路指導室に行ってみたらどうかな。きっとへばってるんじゃないかな。都合上サキは其処を離れられないんだって。差し入れとか持っていったら、きっと喜ぶと思うよ」

駅の改札の前で、定期入れを取り出した晃に投げかけられる言葉。
両手はズボンのポケットに突っ込んだままで、ランスはタレ目気味の目を細めている。

「サキが気を許せる人間って、本当は少ないんだと思うよ」

その言葉の真意はわかるようで、やはりわからない気もした。
それでも、晃はランスに向かって頷いた。

自分は、まだ此処に居ても良いらしい。
鼻の奥がツンと痛くて、晃は何も言えなかった。