Stand by me


「……海に行きたい」

いつもいつも、私の思い付きは突然で。
でも私は一度思い付いたらやり遂げないと気が済まないタチだったりするわけで。
周りに迷惑をかけたり、かけなかったり。
私には放浪癖があるのだろうかと、この時ばかりはそう思った。

「海ですか。この時期だと潮干狩りができますね」

「えっと、そうじゃなくて……」

私の独り言に律義に答えてくれるセイに、何と説明していいのかわからなくて、私は言葉を濁した。
海に行きたいと言っても潮干狩りがしたいわけじゃなくて、ましてや泳ぎたいわけでもない。

「ただ、ちょっと見たくなっただけだし」

「じゃあ、今から行きますか?」

意外とセイは行動力があるらしい。

「夏の東京湾より、冬の日本海かなぁ」

私の言葉に、さすがに彼は苦笑した。

「あと半年待たなくてはなりませんね」

そんなに待てないよ。
私、待つのはあんまり得意じゃないもの。
我慢するのは苦手じゃないけど。

「八月になったら、東京湾に花火を見に行こうね」

「じゃあ、十二月になったら日本海を見に行きましょう」

ぽん、と私の頭の上に手を置く。

「……婚前旅行?」

「いや……、あの」

少し、意地悪な質問だったかもしれない。

「……約束ね」

「はい」

彼の手が私の顔の輪郭をなぞるように下りてくる。
指の先が耳たぶに触れて、ちょっとくすぐったかった。
ここで目を閉じたら……彼はキスをくれたのだろうか?


例えば身を切るような冬の冷たい風の中であっても。
貴方は私の気が済むまで隣に居てくれるのでしょう。
私を、世界の冷たさから守るように……。