ベルリンの壁
「アンタ、私より先に死んだら、殺すから」
君があまりにも真面目な顔で物騒な言葉を吐くもんだから。
俺は思わず手にした缶コーヒーを落としそうになった。
「あぁ、それじゃ駄目ね。末代まで祟るに変更」
一人で眉をひそめている。
「……俺が死んだら、ウチの家系、絶えると思う」
少なくとも本家は。
分家は、もうほとんど他人だから。
君は「そんなコトどうでもいい」と不機嫌そうに窓の外に目線を投げる。
返してくるモノは居ない、二人きりだ。
とりあえず、今のところ、そして困ったことに。
「人を呪わば穴二つって言葉、知ってる?」
「穴なら埋めればイイじゃない」
それもそうだが、人として納得してはいけないと思う。
無糖の缶コーヒーを渡すと、視線は俺の元に戻ってきた。
「結局、何が言いたいのさ」
「……別に」
きっと、大切なコトだったのだろう。
それを俺が理解するのは、また別の時間。
「ねぇ、悠斗。夕焼けが綺麗じゃない? まるで終末の時みたい」
とどのつまりは、そういう気分だったってことだろう。
「真幸、夕焼け嫌いだったっけ?」
君は、笑う。
「大嫌い」
凛とした声。
あぁ、君はそれで良い。
これが、君と俺との間の、最後の壁。