今日は日曜日だから目覚ましは鳴らない。 はずだったのに何故か午前九時ちょうどにけたたましい音をたてやがった。 今日ばかりは自分で塩味の卵焼きを作ってやろうと思ったら、これまた不思議なことに甘い卵焼きが完成した。 何事かと思ったら塩の入っているはずの瓶には何故か砂糖が入っていた。 自分で作ってしまったからには食べないわけにもいかず、結局今朝も甘い卵焼きを嫌々ながら口の中に放り込んだ。

 ほんと、ありえない。




 昼を過ぎてからアタシは学校に向かった。 例の宇宙人を呼び出してある。 送別会っていうか、まあアタシとヤツしかいないんだけど。 明日になったら、アタシは心が広いから今までのありえないことなんかキレイさっぱり忘れてやるんだから。

 くそぅ、悔しいぞ。 せっかくの不思議体験なのにさぁ。

 そんなこんなで、アタシとヤツは屋上へ。 そういや何故にコイツと居る時は屋上なんだろ。 爽やか過ぎてダメージ倍増なのに。

「えー、あー、アンタの無事帰還を祈って、かんぱ〜い」

「かんぱ〜い☆」

 未成年なのでノンアルコール。 ついでに紙コップだからぶつけ合わせても音すらしねぇ。 ため息をつきつつ、コンビニで買ったお菓子を広げる。

「ねぇねぇ」

「船は見せないよ」

 ケチー。 どうせアタシの記憶消すんだからイイじゃんか。

「そうじゃなくて、地球からアンタの星までどれくらいかかるの?」

 柿ピーを口に放り込む。

「どのくらいって、時間?」

 そうだよ。 高速道路の料金聞いてるワケじゃないんだから。

「うーん、亜空間転移とか色々繰り返して3日ってところかなぁ。 でも入国審査とか検疫がたくさんあるから、実際にはもっとかかるよ」

 まぁ、なんてSFちっく。

「ふぅん。それって旅行とかするのにはちょうどいい距離なワケ?」

「中距離移動って感じかな。ちなみにこの太陽系だとご近所圏内」

 てことは「ちょっと牛乳買いに土星まで行ってくるわ☆」みたいなことが成り立つわけね。

 なんか、ロマンの欠片も無いなぁ……。

「あ、やっぱサヤカでもロマンとか考えるんだ。似合わないね」

 おい、コラ。 えー度胸しとるのぉ?

「サヤカ、キャラ変わってるって」

「ほっといてよ!」

「はいはい。どーせキャラ変えるんなら、もっとしおらしくなってよ。 そんなだから男にモテないんだよ」

「宇宙人に言われたくないわ!」

 アタシと宇宙人の送別会は終始こんな感じで過ぎていく。 夕方になって、会もお開きになったところで宇宙人はこんなコトを言った。

「ボクと別れるの、淋しくないの?」

 と笑いながら聞いてきたのでアタシは。

「んなわきゃあるか、ボケ」

 と返した。ついでに。

「淋しく思ってほしけりゃアタシの記憶を残しておいき」

 と言ってやった。 宇宙人は何がそんなに楽しいのかわからないくらいに笑っていた。

「地球人って素直になれない人種なの? 心が読めないのに不便だね」

 読めなくて結構よ。 嘘一つ吐けない世の中なんて面白くないって。

「また、いつか会おうね。サヤカ」

「アタシは気が短いからそう長い間待てないわよ」

「はいはい。それじゃ、また」

「バイバイ」

 今生の別れにしてはさっぱりしすぎかもしれないけど、アタシと宇宙人にはこれくらいがちょうどいいハズ。 こっそり後をつけてやろうかとちょっとだけ思ったけど、こっちの心が読めるアイツ相手じゃ尾行は不可能だと思って諦めた。

 まあ、でもこれでアタシの穏やかな日常は確保されるわけだし? オールオッケーの万々歳ってヤツ?




 とか思ってたのに。

 神サマのいぢわる。




■□■□■




 ひゅ〜〜〜〜〜るるる。

 ぽん。

 月曜の朝。 これぞ爽やかな一日の始まりだってのに、アタシは変な音で目が覚めた。

 くそぉ、久しぶりにゆっくり寝てられるとおもったのにぃ!!!

「何なの!!!!」

 アタシの眠りを邪魔するヤツは!?

 カーテンを引きちぎらんばかりに開き、がらりと窓を開ける。 と、ベランダに立ち上るは黒煙。

 火事?

「……って、火事!?」

 消火器はっ!!

「とりあえず水!!」

 と思って、花瓶の中の水をぶちまけた。 ら、ぶすぶすと音を立てて煙が消えた。

「……何なのよ」

 不審火? 放火犯? 付け火? 八百屋お七!?

「いや、サヤカ。それ、違うから」

「火事になればお前さんに会えるのよ〜って、あれ?」

 今の声。

「……やっほー」

 何処?

「此処。足元」

 そぉっと。 ホントにそぉっと自分の足元を覗いてみて、アタシはすぐに空の彼方に視線をやった。

 あぁ、神サマ。 貴方は誰の味方ですか?

「正義の味方じゃないの?」

「貴様は黙っとけ!!」

 私の平穏無事な生活が大ピンチです。 アタシ、改心します。 だからこんな試練、いりません。 熨斗紙付けて返してもいいですか?

「なんかさー、船の調子悪くって。転移する直前に事故っちゃったんだよね」

「アンタの事情なんて聞ぃとらんわ!!」

「本国から救助が来るまでしばらくこっちにいるから、よろしく☆」

 アタシはちっともよろしくないんだってばぁ〜〜〜〜〜!!!!

「まあまあ。ボク達、心の友だろ?」

「寝言は寝て言え」

「じゃあ、恋人?」

「……呪い殺してもいいかしら?」

「ちょっ、ストップ!! この体格差は卑怯だって」

「知るか!!」

 宇宙人は……………………………………。

 ………………………………………………。

 リカちゃん人形サイズの宇宙人はアタシの手の中で負けを認めた。




 人生、こんなもん?




 ぜっっっったいにイヤ!!