誘蛾灯


近頃の夜の街は、暗闇を知らない。
都心なら尚更、住宅街であっても街灯が道を照らしている。
最終下り電車で駅に降り立った僕は、その明かりに導かれずに暗い河沿いの散歩道を通る。
微かな水音を聞きながら真っ直ぐ行くと、そこには僕を引き付ける明かりが灯っていた。
それは最近、僕が心乱されて仕方の無い光で。
僕の意思とは無関係に、足は勝手に歩みを止める。

人気の無いベランダと、月の見えない星空。
初めてその姿を見た時から、早瀬まゆという人間に光を見ていた。
彼女に会う度、その声で名を呼ばれる度、赦された気持ちがする。
僕は、彼女に相応しい人間であれるだろうか。


あの場所で寒空を見上げていた少女は、もう居ない。
今の居場所はあたたかい部屋の中。

あるいは、僕の腕の中か。