手を繋ぐ
「ねぇ…手、つないでもいい?」
自分でも突然に思いついたことだから、多分、相手にとっても同じ事で。
セイは目を見開いてから、ぱちぱちと瞬かせた。
軽く首を傾げたまま固まっていた彼は、しばらくして答えになっていないことを言った。
「退屈でしたか?」
片手で本を閉じる。
ハードカバーのその本は、先ほどまで私の部屋で本棚に収まっていたものだと思う。
あまりに集中して読んでいたものだから確認はしていないけれど、
前にも何冊かそこから文庫本を持ち出しては読破していたから。
「そんなことないよ?」
そう言うと、さらにセイは困ったような顔をした。
悪趣味かもしれないけれど、私はセイの困った顔も結構好き。
笑った顔はもっと好きだけれど。
つつ…、と傍に寄ってセイの左隣に自分の身体をおさめた。
「……片手だけでいいですか?」
もちろん、いいですとも。
ちょっと冷えた私の右手と意外と温かいセイの左手は、そうしてつながった。
部屋の中では、セイがひざの上のほんのページをめくる音と、
バッハの無伴奏チェロ組曲が流れていた。
途中、曲が終わるとセイはCDを変えるために立ち上がった。
けれど私は手元のリモコンで同じ曲をリピートさせる。
するとセイは柔らかく苦笑して、私の隣に再び座った。
ざわざわと。
ささくれだった気持ちが落ち着いていくのが良くわかる。
心地良すぎるこの空間は癖になりそう。
貴方と共に在る時間。
これ以上のシアワセなど望むべくもないでしょう。
ゆっくりと過ぎていく、穏やかな昼下がりのこと。