背中に、冷たい土の感触を感じる。
見上げた視界には、暗闇を背負った見慣れたカオ。
「悠、斗……?」
繊細な指が肌をすべり、首筋に触れる。
何事か、言おうと思ったはずなのに。
それは言葉の形を成さずに吐息として零れた。
「んっ……」
イロを失くしたガラス玉のような瞳は何よりも美しく。
そこから溢れ出した雫は、悠斗の頬に滴り落ちた。
「嫌……っ!」
その手は離れず、悠斗の意識を遠のかせていく。
触れ合っているはずのカラダは、最早ぬくもりを感じさせない。
鎖の絡みついたその身は重く、それでも彼女と繋がっていて。
サラリと頬に降り注いだ真幸の細い髪。
以前からそうしたいと願っていたように、ソレに指を絡める。
口付け、愛の言葉を想う。
それを伝える術は無く、意識は暗転した。
遠く、真幸の声にならない嗚咽を聞いた気がした。
■□■□■
静かな部屋に、遠く風の音が聞こえる。
それは誰かの啜り泣きにも似て、何かの記憶を呼び起こした。
隣室で人の気配がする。
深夜に目覚めるとは珍しい事と思い顔を上げると、そこには見慣れた人影。
「なんだ、起きたのか?」
「…………夢を見た」
喉でも潤すのかと思いきや、彼女は自分のもとへとやって来た。
膝の上に乗った彼女は、その両手を首筋に添える。
何処かで見たことのあるガラス玉のような瞳。
ふと、それは色彩を取り戻した。
「真幸……?」
黙したまま、何も語らず。
ただ、止まることなく涙を流す。
そっと触れるだけの掌からは、彼女の熱が伝わってきた。
「……とても、嫌な夢を見たの」
力無くくずおれた真幸を抱き込み、その頭を優しく撫でる。
自分の肩に顔を押し付ける彼女の表情は知れず、けれど呟きは耳に届いた。
「アンタを殺すのは私だと思ってたのに」
そ れ は 酷 く 甘 美 な 誘 惑 で あ り な が ら
酷 く 残 酷 な 現 実 で も あ り
結 論 か ら 言 う の で あ れ ば
君 は け し て 殺 さ ず
そ の 最 期 を 俺 の 目 に 焼 き 付 け さ せ る の だ ろ う