合わせ鏡


天 頂 に 満 月 は 至 り、 け れ ど 煌 め く 星 は 無 く
静 謐 に 風 花 は 舞 い、 動 く モ ノ も 無 く
滅 び の 刻 と 見 紛 う ほ ど に 静 か で、 唯 々 闇 が 広 が る ば か り



背中に、冷たい土の感触を感じる。
見上げた視界には、暗闇を背負った見慣れたカオ。

「悠、斗……?」

繊細な指が肌をすべり、首筋に触れる。
何事か、言おうと思ったはずなのに。
それは言葉の形を成さずに吐息として零れた。

「んっ……」

イロを失くしたガラス玉のような瞳は何よりも美しく。
そこから溢れ出した雫は、悠斗の頬に滴り落ちた。

「嫌……っ!」

その手は離れず、悠斗の意識を遠のかせていく。
触れ合っているはずのカラダは、最早ぬくもりを感じさせない。
鎖の絡みついたその身は重く、それでも彼女と繋がっていて。
サラリと頬に降り注いだ真幸の細い髪。
以前からそうしたいと願っていたように、ソレに指を絡める。

口付け、愛の言葉を想う。

それを伝える術は無く、意識は暗転した。
遠く、真幸の声にならない嗚咽を聞いた気がした。


■□■□■



静かな部屋に、遠く風の音が聞こえる。
それは誰かの啜り泣きにも似て、何かの記憶を呼び起こした。

隣室で人の気配がする。
深夜に目覚めるとは珍しい事と思い顔を上げると、そこには見慣れた人影。

「なんだ、起きたのか?」

「…………夢を見た」

喉でも潤すのかと思いきや、彼女は自分のもとへとやって来た。
膝の上に乗った彼女は、その両手を首筋に添える。

何処かで見たことのあるガラス玉のような瞳。
ふと、それは色彩を取り戻した。

「真幸……?」

黙したまま、何も語らず。
ただ、止まることなく涙を流す。
そっと触れるだけの掌からは、彼女の熱が伝わってきた。

「……とても、嫌な夢を見たの」

力無くくずおれた真幸を抱き込み、その頭を優しく撫でる。
自分の肩に顔を押し付ける彼女の表情は知れず、けれど呟きは耳に届いた。

「アンタを殺すのは私だと思ってたのに」



そ れ は 酷 く 甘 美 な 誘 惑 で あ り な が ら
酷 く 残 酷 な 現 実 で も あ り

結 論 か ら 言 う の で あ れ ば

君 は け し て 殺 さ ず
そ の 最 期 を 俺 の 目 に 焼 き 付 け さ せ る の だ ろ う