マルボロ


突然、タバコの量が増えたんじゃないかとドクターに言われた。
俺自身そういうつもりは全く無いけど、よく考えたらタバコの自販機の前で立ち止まることが増えたかもしれない。
他人のコト、なんでそんなに見てるんだろうね。
でもそんなこと当人に聞いたら、あのキレイな青い目で睨まれそうだからやめておく。
つもりだったけど、なんか気になったからやっぱり聞いた。

「なんで俺のタバコなんか気にすんの?」

身体に悪いって言っても、どうせ俺の身体だし。
ついでに言えばタバコ代は俺が自分で出してるんだし。
でも、彼から返ってきたのはそういう問題じゃなかった。

「タバコの匂いを嗅ぐと、なにやら嫌なコトを思い出すんですよ……」

何故かドクターは明後日の方向を見て答えた。
何?
よっぽどヤバイ思い出でもあるんだろうか。

「まぁ、副流煙なども気になりますしね。近くに居る私にも害がありますし」

……もしかして、違和感?
不可解な感情を持て余している間に、彼はかかってきた電話を取って何か話していた。

一体いつからそんな優しい顔するようになったのさ。
やっぱり、あの女の子の為?

「ふーん……」

「戒人、どうかしましたか?」

電話を切った後の顔。
それは俺が良く知っている「いつものドクターの顔」だった。
やっぱ彼、素はボケだよ。
いくら電話で彼女と話してるっていっても、俺にそーゆー顔見せちゃ駄目デショ。

「いや、禁煙とか考えた方が良いのかなーって思ってさ」

ポケットからタバコの箱を取り出して、彼の目の前で振ってみる。

「どう思う?」

「……別に、無理にやめる必要は無いと思いますよ」

ドクターは少しだけ口元に笑みを乗せて言う。

「それに、ソレは貴方に似合ってますから」

やはり、違和感。
ドクターってこんなキャラだっけ?

「それでは私はこの辺で。次の仕事もよろしくお願いしますよ」

俺の元を離れて人込みにまぎれていく彼の後姿を見送る。
そして俺は手に持った赤いマルボロの箱から、一本タバコを取り出した。
それを口にくわえて、火を点ける。

ショーウィンドに映った自分の姿を見て。
俺はナルシストじゃないし、その様子が特別に格好良いとか思わない。
けどまぁ、似合わなくはないかと思った。

「変なの……」


前とは変わったけど。
前よりもっと、ずっとイイ。