18.砂糖菓子


多くの来校者を迎えた文化祭は無事に終わり、校舎内の其処彼処にその名残を残しつつ、新たな行事を迎えようとしていた。
あまり歓迎されざる行事ではあるが、学生の本分であるコレを避けて通ることはできない。
即ち、定期考査を。
試験前ということもあってか、校舎内は勉強ムード一色であった。
特に三年生の教室が集中する階は、大学受験が近くなる秋口にあって、いよいよその様相を呈し始めていた。

放課後、第二進路指導室を訪れた晃が目にしたのは、胃薬をコーヒーで流し込む真幸の姿だった。
別に受験勉強のストレスと言うわけではないだろうが。
それで効き目があるのだろうかと、真剣に考えてしまった晃は、室内の様子がいつもと違っていることに気付くまで、しばしの時を要した。

「何処から持ってきたんですか、このソファ……」

あまりに自然に室内に置いてあるものだから、当たり前のように真幸が座っているから。
先週まで、この部屋には数本の長机とパイプ椅子が数脚あるだけのはずだった。
だがしかし、週が明けた今日、部屋の中央には三人掛け程度のソファが鎮座している。
電気ポットとインスタント・コーヒーがあるのは前々からだが。

「改装するんで応接セット捨てるって言うから、佐倉校長に頼んだらくれた」

パイプ椅子って、くつろげないじゃない。
付け加えられた意見には至極賛同するが、果たしてそれで良いのだろうかと悩むのは間違いではないだろう。

「どうでもいいんですけど、なんでこの部屋、こんなに南瓜っぽい匂いが漂ってるんですか?」

「『南瓜っぽい』じゃなくて、正真正銘南瓜の匂いよ」

鼻をひくつかせる晃に、心持ちげんなりとした表情で真幸は答える。
二学期になると、聖陵高校の家庭科の授業はどの学年も調理実習になる。
時期は十月末。
と言えば、思い出すのはハロウィン。
ハロウィンと言えばジャック・オ・ランタン。
そこから連想して、南瓜を使った献立だったようだ。

「さすがに午前と午後と二クラス分は辛いわ……」

なんでも調理実習のあったクラスの生徒が、完成した料理を持って昼休みと放課後に大挙して押し寄せたとか。
調理実習の季節において、これは恒例行事らしい。

「ところでアンタ、何しに来たの? 中間テスト前なんだから、家に帰って勉強しなさいよ」

「ランスセンパイに英語教えて貰うことになってるんで」

「此処で? まぁ、良いけど。あ、そこにあるコーヒーとか、好きに飲んで良いから」

真幸が指差すポットの脇に置かれているのは、インスタント・コーヒーに始まり、紅茶や緑茶のティーバッグ、インスタントの味噌汁にコーンスープ、果てはカルピスの原液まである。
コーヒーとスープ類を持ち込んだのは、ここで昼食を採っている真幸だろう。

「カルピス?」

「冬にホットカルピスは良いわよ。心が和む」

「はぁ……」

晃は生返事をするに留まった。
どうせ飲むなら、冷たいカルピスの方が好みだ。
無難なあたりを、ということで、晃は紅茶のティーバックに手を伸ばした。
何故か電気ポットの脇には、南瓜の置物も飾られている。
さすがはハロウィン。

積み重なった紙コップを一つ取り、お湯を注いで中にティーバッグをひたす。
色が出るのを待っていると、ランスが通学鞄の他に紙袋を提げて現れた。

「サキー、もうアキラ来てる?」

「来てるわよ。勉強会?」

「そんな感じ。あ、アキラ、待たせてゴメンね。それよりさ、胃薬持ってない?」

「同病相憐れむ」

そう言った真幸は、ランスに向かって小瓶を投げた。
どうやらランスも真幸と似たり寄ったりの状況らしい。
ランスは空いた片手で、器用に小瓶をキャッチした。

「全部食べたの?」

「Yes. Why not? ところでこのソファは何処から?」

「改装するんで応接セット捨てるって言うから、佐倉校長に頼んだらくれた」

ランスは受け答えしながら、晃の隣で自分用に緑茶を淹れる。
と言ってもティーバッグなので、紙コップにお湯を注ぐだけだ。
ところで、ランスも緑茶で胃薬を飲む気だろうか。

問わずとも、そのうちわかることである。
晃はあえて口をつぐんだままでいることにした。

ソファを入れたせいで、隅に追いやられた長机にランスは荷物を置く。
そして立てかけられたパイプ椅子を開いて腰掛けると、晃の予想通りに熱い緑茶で胃薬を流し込んだ。

(なんでこの人達はさぁ……)

ランスが手招きするので、晃も自分の分の椅子を引っ張り出す。
そして鞄から英語の教科書と辞書を取り出した。
あやうく本来の目的を忘れるところであった。

「で、何処がわからないって?」

「何処っていうか、全部?みたいな。はは、は……」

「文の意味がわからない?」

「いや、意味も文法もなんですけど」

「ゴメン、何処から教えればいいのかな?」

「……最初からお願いします」

ランスの表情が曇ったのは、晃の見間違いではなかったはずだ。




+ + + + +



部屋の片隅でランスが頭を抱えながら晃に英語を教え始めたのを見て、真幸はそろそろ撤退しようと考え始めた。
いい加減にこのカボチャの匂いから解放されたいし、これ以上この部屋に居ても、ランスと晃の邪魔になるだけだろう。

コーヒーを飲み終えたら下校するつもりで、真幸は身の回りの物を片付け始めた。
と言っても、読んでいた文庫本と、差し入れを持ってきた生徒の名前を書き出したメモ帳を鞄に仕舞うだけだ。
料理が入っていた弁当箱は既に洗ってあり、紙袋などと一緒にソファの端の方にまとめて置いてある。
明日、その中に菓子とお礼の手紙を入れて、各自に渡すのだ。
名前をわざわざリストアップしてあるのは、そのお返しを人数分用意する為。
そういった点は非常にマメであり、それが真幸への差し入れを増加させる要因でもある。

真幸の鞄が、試験前にも関わらずやけに軽いのは、いつものようにほとんど教科書が入っていないからだ。
それを肩に掛け、ソファから立ち上がった時。

「お姉さまぁ。まだいらっしゃいますかぁ?」

真幸よりも早く、外側からドアを開けたのは唯だった。
手に持っているのは、可愛らしい小さなバラの飾りが付いた、ピンク色の紙袋。
どうやらラッピング紙袋に過敏になっているらしく、それに目を留めた真幸は、現在の持ち主である唯に問いかけた。

「それは唯の?」

「多分、お姉さまのですよぉ。ここのドアの前に置いてありました!」

唯の手から真幸の手へと紙袋が渡る。
もう、南瓜は嫌だ。
そう思いながら、真幸は紙袋の中身を探る。
中から出てきたのは、これまた可愛らしく個別にラッピングされた、直径七センチメートル程度のパンプキン・パイ。
その数、十個ほど。

「美味しそうですねぇ」

「これ、本当に私宛? カードも何も入ってないんだけど」

差出人のわからないもの、特に食べ物を受け取るのは、あまり褒められたことではない。
もっとも、この時の真幸の頭の中は、この量を一人では食べきれない、という心配であったが。
そんな真幸の内心を知ってか知らずか。

「でもこの部屋に居るのって、お姉さまがほとんどですからねぇ」

「少なくとも、僕らのうちの誰か宛ってコトじゃないの?」

「それって俺も入ってるんですか?」

無邪気な問いに、一瞬、それを発した晃に視線が集まり、すぐに外される。

「……冗談です。スミマセン」

「わかりきったコトを聞くのは時間の無駄。ま、結構量あるし、皆で食べる?」

「ですよね!! そうこなくっちゃ!!」

育ち盛りで成長期の晃は、そろそろおやつの時間らしい。
飛び上がって喜ぶ晃に、真幸は肩から鞄を下ろし、パイの入った紙袋を渡した。
そしてお茶を淹れようとする唯を座らせ、代わりに自分がポットの前に立つ。

「うわー、すっごい美味しそうなんですけど!! これも手作りなんですかね。凄いなぁ」

「先に食べて良いわよ。私は自分の分、持って帰るから」

「僕も持ち帰りで。さすがに今日はもう遠慮したいしね」

「んじゃ、遠慮なく。いただきまーす」

いつも遠慮なんて無いじゃないですかぁ、と唯の呟きが聞こえる。
苦笑しながら紅茶を淹れた紙コップを渡し、真幸自身も唯の隣に腰を下ろす。

「ありがとうございます。ところでこのソファはどうしたんですかぁ?」

「改装するんで応接セット捨てるって言うから、佐倉校長に頼んだらくれたのよ」

このやり取りも、既に三度目である。

「じゃ、ユイも食べようかなぁ」

唯の手がパイに伸び、透明なビニールの包装を剥がしていく。
いただきます、と唯が口を開いた瞬間。
真幸は目を見開き、思わず唯の手を掴んで引き寄せていた。

「きゃっ、何ですかぁ」

唯の抗議を受け流し、その手の先、狐色に焼き上がったパイを凝視する。

「サキ、どうかした?」

一日中カボチャと付き合っていたせいで、鼻が馬鹿になっていたようだ。
真幸は心の中で盛大に舌打ちした。
それを表に出さないのは、少しは成長したという証だろうか。

「……食べるのは、ちょっと待って。コレ持ってきたの、誰かわからないかしら」

真剣そうな真幸の言葉に、晃が己の手から食べかけのパイを取り落とす。
半分以下のサイズになっているそれは、重力に従い床にぶつかって崩れた。

「俺、思いっきり食べちゃったんですけど!!」

「何か変な感じとか、する?」

「いいえ、全然。めちゃめちゃ美味かったっス」

「あっそ。じゃ、アンタは別にいいわ」

「えぇっ!?」

唯の手からパイを奪い、真幸はそれの匂いを嗅いだり、ひっくり返したりしている。
その行為の意味がわからない他の面子は、ただそれを見守るだけだ。

「……わっかんないなぁ。なんだろ、コレ」

「わからないのはサキの行動の方なんだけど?」

自分の世界に半ば入り込んでいた真幸を、やんわりとランスが連れ戻す。

「コレ、何かの魔法薬が入ってるような気がするのよね。第六感に訴えかけるモノがあるっていうか。心当たりとかある? 多分アンタの方が鼻は利くと思うんだけど」

そう言って、問題の品をランスの手に回す。
それを受け取ったランスは、先ほどの真幸と同じような行動を取った。

真幸は非常に優秀な能力者であるが、その能力は攻撃系統に大幅に偏っている。
霊具に関する知識や能力はあまり高い方ではなく、とりわけ魔法薬に関する知識は薄い。
以前にその製作を試したことはあるのだが、思ったほどの効果が得られなかった為に、学ぶことを止めてしまったのだ。

「うーん……良くわからないな。カボチャのせいで鼻が馬鹿になったのかな」

「仕方ない。ユイ、ランス、悪いんだけど、書庫の『教授』を此処に呼んで、あと大時計前の『市川先生』にこの袋を持った生徒を見なかったか聞いてきてくれない?」

ピンク色の紙袋を目の前に掲げた。
言わずと知れた、パイが入っていた袋だ。

「わかりましたぁ。でもあの人達、苦手なんですよねぇ」

ぶつぶつ言いながら部屋を出て行く唯と、それに付き添うようなランスを見送る。
やれやれとソファに座りなおした真幸に、今度は晃が詰め寄ってくる。

「センパイ〜、結局何なんですか?」

「だから、この差し入れに何か薬が混入されてるみたいだけど、それがわからないから、そのエキスパートを呼ぶんじゃない」

「『教授』って、ダレ?」

「来ればわかるわよ。って、今のアンタじゃ来てもわかんないか」

「まさか……」

晃の予想は的を射ていた。
唯が連れてきたという『教授』の姿を、晃は全く認識をすることは出来なかった。

『ご機嫌麗しゅう、真幸嬢。今日はこの儂に何の用かな?』

「御機嫌よう、教授。魔法薬の専門家である貴方に尋ねたいことがあるの。このお菓子なんだけど、これに混入されている薬が何かわかるかしら?」

『拝見』

真幸は手に件のパイを乗せ、教授の目の前に差し出す。
カイゼル髭を撫で付けながら、それをじっくり検分する教授。
けれど晃の目には、真幸がパイをもって空中に話しかけているようにしか見えない。

『ふぅむ。これは一種の毒薬で、口にした者の霊力に比例して、その影響の度合いが異なるという代物。真幸嬢が食べていたなら、無事では済まなかっただろう』

「日頃の行いが良いからね。解毒剤は作れる? お願いしたいんだけど」

『無論のこと。儂に作れぬ薬は無い』

「だって。良かったわね、晃」

教授の痩身が壁を通り抜けて消えてから、真幸は晃に向き直って話しかけた。

「すいません、俺には全然話がわからないんですけど」

「霊力の無い晃にはぜーんぜん関係無いけどぉ、もしかしたら影響があるかもしれないんでぇ、教授が自ら解毒剤を作ってくださるそうですよぉ」

「霊力の強い人間に影響する毒薬が混入されてたって」

「えぇっ!?」

さらりと言ってのける真幸に、晃はのけぞるようにして驚く。
真幸自身は全く意に介していないのだが。

「ランスは?」

「市川先生が紙袋の持ち主をちゃんと見ててぇ、二年の村田さんって人らしいんですけどぉ、まだ下校してないみたいだから、ここに引っ張ってくるって言ってぇ、探しにどっか行っちゃいましたぁ」

その言葉の通り、十分ほどすると、ランスが一人の男子生徒を連行して戻ってきた。
片手になにやら古い本を抱えて。

「誰?」

「二年五組、村田博之。料理部の部長さん。丁寧に聞いたら、全部しゃべってくれたよ」

にっこりと人好きする笑顔で話しているが、蒼白な村田の顔を見る限り、丁寧の意味が若干異なるようだった。
詳しくは聞かないが、男子に容赦無いのは真幸と同じだ。

「ぼっ、僕をどうするつもりなんだっ!!」

「別にどうもしないわよ。ま、聞きたいコトは一杯あるんだけど。勿論、正直に答えてくれるわよね」

真幸が微笑みかけると、村田は蒼白な顔面を一層白くして、がくがくと思いっきり首を上下させた。
ランスから解放された村田は、立っていられず真幸の前で床にへたり込む。
その右後ろにランスが、左後ろに唯が立ち、村田が逃げられないようにガードする形だ。

「こんなことをした理由はどうでも良いのよ。聞きたいのは、何処でこんなモノの作り方を覚えたかってコト」

「サキ、彼が持ってた本なんだけど」

ランスから本を受け取る。
カビ臭く、扱いを間違えればバラバラと崩れてしまいそうなほど古い。
その本の表紙をめくり、丁寧にページを繰っていく。
ページが進むに従って、段々と深くなるのは真幸の眉間のシワ。

「……何処で手に入れた」

真幸の低い声、鋭い眼差し。
自分に向けられたわけでもないのに、晃が思わず退く。

「答えなさい。何処でこの本を手に入れた?」

「あ……え、駅の裏手に古本屋があって、そこの爺さんが……」

村田の言葉を最後まで聞かず、真幸は突然立ち上がった。
そして本を近くに居た晃に押し付ける。

「そいつは適当にシメといて。あと、教授が解毒剤持ってきたら、それを晃に飲ませて。その本は、ランス、ひとまずアンタに預ける」

「あ、うん。わかった」

ランスの返事もそこそこに、真幸は単身部屋を飛び出した。




+ + + + +



校門から出てすぐに、真幸は己の失策に気付いた。
けれど、もう遅い。

(……自転車に乗ってくるんだった)

駅前に向かうのであれば、学校の正門から出る方が距離的には近い。
裏門側の自転車置き場を経由するのは、時間のロスがある。
そう思ったから、真幸は靴を履き替えて、そのまま正門へと向かった。
けれど自分の足で走るより、どう考えても自転車を使った方が速く、そして遥かに楽だったはずだ。

駅前に到着し、そのまま改札に向かうのではなく、手前の脇道を折れた。
自転車置き場になっている高架下を通り抜け、その先の街灯の少ない薄暗い道を覗き込む。
そこは普通の路地裏で、話に聞いたような古本屋の姿は無い。

「あの、この辺りに古本屋さんってありますか?」

たまたま通った主婦らしき女性に尋ねるが、返ってきた言葉は「全く知らない」の一言。
真幸は溜息を吐いて、ポケットから携帯電話を取り出した。
あまり使わないメモリを呼び出し、その番号に発信する。

『ハイ、佐倉ですが』

電話から聞こえてくるのは男性の声。

「神城です。会長、お久しぶり」

『なんだ、真幸君か。直通回線を使ってくるなんて、珍しいな』

「何処に持っていけば良い話かわからなかったんで」

電話の向こうで、相手が苦笑する気配が伝わってきた。
最強の能力者の一人に名を連ねる佐倉は、協会の会長の椅子に座る人間である。
協会創設のオリジナルメンバーであり、また聖陵高校の佐倉校長とは血縁関係にある。

「……誰かが写本をばら撒いてるみたい」

『それは真正の物か?』

「妖精だから、おそらく」

真幸の少ない言葉の意味も、佐倉には正しく伝わったようだ。
電信柱を撫でていた真幸の手の平には、鱗粉のようなものがうっすらと残る。
妖精が姿を消す時に残すものだ。
妖精と言っても、御伽噺に出てくるような、羽の生えた可愛らしい生き物ではない。
彼らは、非常に上手く人間界に紛れ込んでいる。

「残念ながら既に逃げられた後。此処では二月にも同じようなことがあったけど、次に戻ってくる時期は不明」

『元より妖精は気まぐれだからな。手の打ちようが無い』

「だから会長に直接話してるんだけど」

秋の冷たい風が、手についた粉を吹き飛ばしていく。
真幸は携帯を耳に押し当てたまま、表通りに足を向けた。

『その情報を各地に回して、警戒してもらうしかないだろうな』

「それは会長の仕事でしょ。よろしくお願いしまーす」

わざと軽い調子で応じると、またしても佐倉が苦笑するのがわかった。
それが、言葉の通りの苦々しいものではないことを知っているので、真幸も苦笑で返すことにした。




+ + + + +



行きとは違い、だらだらと歩いて学校に戻ってくる。
そこでは『教授』の作った解毒剤を飲ませようとするランスと唯、そしてそれを力一杯拒否している晃の姿があった。

「ぎゃー、マジ勘弁してくださいよー!!」

「一応飲んでおこうよ。何かあったら困るから」

「そぉですよ。はい、あーん」

ランスに後ろから羽交い絞めにされ、唯がスプーンで薬を差し出している。

『教授』が作ってくれた解毒剤。
指先程度の大きさで、パステルカラーのキャンディかグミのような砂糖菓子に見えた。
けれどその可愛らしい外見に反し、室内には鼻を覆いたくなるような毒々しい匂いが漂っている。
匂いでこの状態なのだから、味の方は推して知るべし。

「とっとと食べなさいよ」

真幸が晃の鼻をつまむと、自然とその口が開く。
それを見逃さず、すかさず唯がスプーンをねじ込んだ。

「!!!!!!」

涙目で暴れる晃を尻目に、唯に窓を開けるように指示する真幸。
良薬は口に苦いとは良く言ったものだ。
自然なカボチャの甘味の方が数倍マシだと、真幸は窓の外の空気を吸い込んだ。